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PHOTOGRAPHERS/ED VAN DER ELSKEN ·UPDATED 2026.07
EE
§ 097 — Photographer Index —

エド・ファン・デル・エルスケン

Ed van der Elsken
Country1950s / 1950年代 Period1950–1960s Channel写真史の入口 · PHOTO HISTORY
Abstract

エド・ファン・デル・エルスケンは、戦後パリの若者たちを撮った『Love on the Left Bank』で、親しい関係の記録を文章、虚構、ページ構成による写真小説へ編んだオランダの写真家・映画作家。『Sweet Life』『Amsterdam!』、映画『De verliefde camera』『Bye』では、街で交わした視線、撮影者の声、編集の時間まで作品に含めた。写真が誰の経験として語られるのかを、写真集と映画の形式から問い続けた制作をたどる。

この写真家が変えたこと

エルスケンは、ドキュメンタリー写真に撮影者の好悪、身体的な距離、文章、ページの順序を明示し、一人称の記録形式を具体化した。『Love on the Left Bank』は実在の人物と出来事を写真小説へ構成し、『Sweet Life』と映画作品は、旅、都市、家族、病を、撮る者自身が関与した経験として提示した。

Keywords 写真小説 主観的ドキュメンタリー Love on the Left Bank Sweet Life カラー写真 映画
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 04 背景と時代

エド・ファン・デル・エルスケンは1950年から1954年までパリで暮らし、サンジェルマン・デ・プレ周辺に集まった若者、芸術家、移住者、夜の街の住人を撮影した。公式アーカイブは、四十年以上に及ぶ写真、写真集、映画の仕事を、人との出会いに形を与えた活動として要約し、彼が都市を歩きながら個性の強い人物へカメラを向けたことを記している*1。作品には、近距離で撮った人物、同じ相手を繰り返し撮った時間、後年の再会が残された。1956年の『Love on the Left Bank』は、その方法を写真集の構造として示した最初の代表作である*2。 パリ時代の被写体には、レトリストや後のシチュアシオニスト・インターナショナルに近い場所へ出入りした若者も含まれる。リベロ・アンドレオッティの研究は、同書がレトリストたちの好んだ場所や遊歩の文化を伝える写真資料として機能した点を指摘している*18。エルスケンの制作を特定の思想運動の実践と断定できる資料は限られている。方法の土台には、街を歩くこと、相手へ話しかけること、何度も会うこと、写真を物語とページへ編集することがあった。ナン・ゴールディンは後年、彼の撮影を、被写体との関係を作り、その関係を保つ行為として捉えている*15。誰に惹かれ、どの関係を作品へ残したかを文章と配列に示したことが、彼の一人称の形式を支えた。

§ 02 / 04 表現の核心

『Love on the Left Bank』——現実の関係を写真小説へ編む

『Love on the Left Bank』は、実在する若者たちの写真を、架空の青年マニュエルが語る失恋物語へ配置した写真小説である。中心人物アンは、オーストラリア出身の画家ヴァリ・マイヤーズをモデルとし、カフェ、部屋、路上、鏡、夜の集まりで繰り返し現れる。公式書誌は、1950年から1954年に撮影したドキュメンタリー写真を虚構の恋愛物語へ構成し、エルスケンの文章とユリアン・シュローファーのデザインが密接に結びついた本として説明している*2。Photo Anthologyは、写真の反復、細長い連続写真、見開きの切り替え、過去へ戻る構成を分析し、読者が登場人物と時間を追うように設計された本であることを示している*13。 撮影された人物と場所は実在する一方、読者がたどる恋愛物語は、出版時の順序と語りによって作られた。その構造によって、記録した出来事と、それをどの物語へ置くかという編集判断が区別して示された。ゴールディンが彼を自身の先行者として挙げ、写真を関係の維持と結びつけたのは、この一人称性を評価したためである*15。親しい人物は写真集の登場人物として再配置され、撮影者と編集者が物語の主導権を握る。被写体への愛情を示す写真を含む一方、人物をどの役割で登場させるかは撮影者と編集者が決めている。

近距離の撮影と『Sweet Life』『Amsterdam!』——出会いを一人称の記録へ

エルスケンの近距離撮影は、相手と同じ場に入り、会話や反応が起こる距離を画面へ残した。公式アーカイブが紹介する『Amsterdam!』の文章には、彼が自分の暮らした街と、その街で関心を持った市民を近距離から記録し、ニューマルクト、ユダヤ人街、デ・パイプの住民、労働者、反抗的な若者、デモ、警察の介入へカメラを向けたことが記されている*2。その都市像は、親しくした人物、興味を持った身振り、デモや警察の介入など、撮影者が選んだ場面から構成された。誰を選び、どこまで近づき、どの言葉を添えるかという判断が、作品の内容になっている。 1959年から1960年の世界旅行をもとにした『Sweet Life』では、撮影後の編集がさらに大きな比重を持った。TIMEは、約五千点の写真から選び、切り抜いた写真を使うストーリーボードを作り、極端なトリミング、全面印刷、見開き、二十六ページに及ぶキャプションを含む本を完成させるまで約四年を費やしたと報じている*14。公式書誌も、写真、文章、ブックデザインを本人が担い、ウィム・クロウウェルのタイポグラフィーと日本のグラビア印刷が本の構成を形づくったことを記録している*2。キャプションと画面サイズには、旅先での驚き、好悪、疲労、興奮が反映された。『Amsterdam!』では、社会階層、若者文化、抗議運動、日常の衝突が、撮影者自身の街の記録として提示された。

『De verliefde camera』『Bye』——声と身体を撮影の責任として残す

映画は、写真集でページの外にいた撮影者の声と身体を、作品の時間へ直接参加させた。『Een fotograaf filmt Amsterdam』では、エルスケンが街の人々へ接触し、自分自身の都市像を作る過程が映像として示される*11。『De verliefde camera』は写真制作を中心に置いたセルフポートレートとして構成され、1971年にオランダ国家映画賞を受賞した*8。カメラ、声、相手の反応が、完成写真の背後にあった交渉を伝える。映画では、撮影者と被写体が同じ状況を共有した時間が記録された*3。 『Welkom in het leven, lieve kleine』は家族の出産を扱う*12。『Death in the Port Jackson Hotel』では、パリ時代のアンのモデルとなったヴァリ・マイヤーズを約二十年後に訪ねた*10。末期がんの自身を撮影した『Bye』では、病む主人公と映画を作る人物が同一となり、死が作品の主題になった*9。撮影者自身の衰弱、家族の反応、カメラへ向ける言葉が記録され、観察者と被写体の立場が一人の身体に重なる。最後には、自身の病と死を一人称の記録の対象にした。

§ 03 / 04 代表作・方法・媒体

『Love on the Left Bank』『Sweet Life』——ダミー、見開き、グラビア印刷

エルスケンの代表作は、撮影時の瞬発力と同じ程度に、写真集を作る長い編集作業から成立した。Rijksmuseumの「Up Close」は、コンタクトシート、暗室実験、書き込み、写真集ダミーを通して、彼が探し、絞り込み、作り直しながら、撮影時の感覚に合う形式を求めた過程を紹介している*4。同館とNederlands Fotomuseumが取得したアーカイブには未採用写真や未刊行ダミーも含まれ、完成作に長い選別と組み替えが刻まれている*5。1960年頃に作られた未刊行ダミー『Feest』では、古い写真と新しい写真を組み合わせ、祝祭、興奮、酩酊、疲労をリズミカルな対写真へ編んでいた*2。 『Love on the Left Bank』の映画的な連続と、『Sweet Life』の極端な拡大・縮小、全面印刷、長いキャプションは、ページの設計そのものを表現の一部にした。隣接する写真、ページの速度、余白、黒いインク、文字の量が、各写真の読み方を変える。TIMEが紹介する制作資料では、切り抜いた写真を繰り返し置き換えたストーリーボードから、最終的な配列へ至る過程が確認できる*14。選択、拡大、反復、印刷濃度は、撮影者の記憶の順序を、読者がページをめくる時間へ組み込んだ。

『Hallo!』とカラー写真——見開きの連想で写真をつなぐ

1978年の『Hallo! Een nieuwe Ed van der Elsken』は、二枚の写真を毎回異なる連想関係で組み合わせ、ときに一枚を見開きへ置く構成を採用した。公式書誌は、刊行時には十分理解されなかったこの方法が、後の写真家に影響を与える形式として評価されるようになったと説明している*2。人物、動物、身体、物、身振りが、撮影場所や年代を越えて隣り合い、ページ上の類似、対比、ユーモアが各写真の意味を変える。『Love on the Left Bank』は物語の連続を作り、『Hallo!』は写真同士の飛躍を編集原理にした。 カラー写真は、雑誌と旅行の仕事を通じて長期にわたり制作された。公式アーカイブは、四万二千点を超えるカラースライドの修復を経て、『Lust for Life』がカラー作品の包括的な再検討として刊行されたことを記している*2。1977年の『Eye Love You』は全編カラーの最初の写真集で、世界各地の男女の愛から、生存をめぐる連帯と孤独へ主題が移っていく*2。The New Yorkerの「Full Spectrum」は、戦後カラー写真史がアメリカ中心に語られた結果、エルスケンを含むヨーロッパの実践が長く十分に評価されなかったと論じている*17。彼のカラー作品では、旅行、日常の物質的な色、見開きの連想が、白黒作品と異なる編集原理になった。

§ 04 / 04 批評と写真史上の位置

ロバート・フランクウィリアム・クラインとの比較——戦後写真集の「私」

エルスケン、ロバート・フランク、ウィリアム・クラインを並べると、1950年代の写真集が一人称の経験を組み込んだ複数の方法が明確になる。フランクの『The Americans』は、移動中に集めた断片を配列し、国旗、自動車、人種隔離、宗教、孤独をアメリカ社会への批評として結びつけた*21。クラインの『Life Is Good & Good for You in New York』は、粗い粒子、ブレ、接近、タイポグラフィーを組み合わせ、ニューヨークの速度と混雑を写真集の構成へ移した*22。エルスケンは、名前を持つ人物、再会、恋愛、家族、写真家自身の声へ重心を置いた。三者とも、撮影者が社会と接触した経験を、配列と造本へ組み込んだ。 エルスケンは、画面の荒々しさに加え、文章、登場人物、写真の再使用、編集、映画の声を用いて、愛情や反発を作品の構造へ入れた。マーティン・パーが編集した『My Amsterdam』は、視点、ユーモア、細部への関心、制作への熱意に両者の共通性を見いだし、オリジナルプリントの書き込みや汚れまでカラー印刷で再現した*2。写真家の生活、撮影時の関係、編集物を一つの制作として扱う態度は、後続の写真家による受容にも現れている。

親密さ、旅行、作者性——表現の批評性と限界

エルスケンの批評性は、写真集の中心人物に誰を選ぶかという判断に現れた。彼が繰り返し撮ったのは、戦後パリのボヘミアン、アムステルダムの労働者や反抗的な若者、路上で出会った恋人たち、家族、病む自分だった。『Love on the Left Bank』のアンは、視線、服装、煙草、沈黙、反復によって本の中心人物になった。パティ・スミスは後年、ヴァリ・マイヤーズの像が若い読者に与えた自由と自己形成の可能性を回想している*16。この受容は、親密な人物を写真集の主役へ置いた効果を伝える。 親しい人物を架空の語り手の物語へ配置したことで、撮影者と編集者は人物の見せ方を決める立場に立った*13。1957年の『Bagara』は、フランス領赤道アフリカの行政官でもあった親族の招きで撮影され、村落生活に続いてサファリと狩猟を扱った写真集である*2。この撮影は、フランス植民地行政官だった親族の招きによって可能になったため、同書を読む際には、旅行と撮影を可能にした植民地統治の条件も外せない。ゴールディンの継承、アーカイブ研究、カラー作品の再評価は、撮影者の主観を、その好悪、編集、介入、失敗まで含めて検討する論点を示す。Rijksmuseumのアーカイブ展は、完成作とともに試行錯誤や未刊行ダミーを公開し、作者性を制作過程から検討できる構成を採った*5

§ REL 関連する写真家・運動
関連する写真家
  • イジス ― 同じ戦後パリを拠点に、詩的・主観的な都市写真を展開した同時代人。
  • ドロシー・ボーム ― 戦後ヨーロッパの都市とストリートを主題とした観察的写真を共有する。
関連する運動
  • ストリート写真 ― 戦後パリのボヘミアと都市のサブカルチャーを撮ったストリート写真の系譜。
  • ドキュメンタリー ― 被写体の内側に入り込む「生きられたドキュメンタリー」を書籍形式へ拡張した。
§ REF さらに読む
Love on the Left Bank
Ed van der Elsken / first published 1956

実在の若者たちの記録を写真小説へ構成した出発点。写真、文章、反復、ページの速度を造本から確認できる。

Sweet Life
Ed van der Elsken / first published 1966

世界旅行の写真を、全面印刷、極端なトリミング、長いキャプション、濃いグラビア印刷へまとめた代表的写真集。

Ed van der Elsken. Up Close
Hinde Haest / Rijksmuseum & nai010 / 2026

コンタクトシート、暗室実験、書き込み、写真集ダミーから、撮影後の選択と作り直しを検討する展覧会図録。

§ SRC 出典