写真の座標 Photo Coordinates
PHOTOGRAPHERS/GERMAINE KRULL · モダニズム
GK
§ 069 — Photographer Index — モダニズム

ジェルメーヌ・クリュル

Germaine Krull 1897–1985
Countryドイツ Period1910–1920s Channel読む報道写真 · DOCUMENTARY
Abstract

工業構造を断片と斜線で編集した写真集『Métal』で知られるドイツ生まれの写真家。前衛、写真集、報道、商業媒体を横断し、複数の国を移動しながらモダニズム写真の大衆的流通を支えた。

この写真家が変えたこと

クリュルは、工業構造を断片と斜線へと編集した写真集『Métal』に代表されるように、前衛的な視覚実験を写真集や報道、商業媒体へと接続した。複数の国を移動しながら展開したその仕事は、モダニズム写真を展覧会の外へ持ち出し、印刷物を通じて大衆的に流通させる経路を開いた。

§ WORKS 作品を見る

本サイトでは作品画像を掲載していません。下記の公式アーカイブで作品をご覧ください。

目次 · Table of Contents
§ 01 / 03 背景と時代

ジェルメーヌ・クリュルは1897年にドイツで生まれ、ミュンヘン、オランダ、パリと移動しながら写真活動を展開した。*1 1920年代にパリで活動の拠点を確立し、雑誌報道、ファッション、前衛的な写真実験を並行して手がけた。*2 1928年に刊行した写真集『Métal』は、パリのエッフェル塔橋梁、機械、都市インフラを急角度と断片化で構成した作品集として、写真集史の中で重要な位置を占めている。*3

彼女の経歴は一つの国や運動に固定できない移動性を特徴とする。フランスのシュルレアリスムとの接点、ジャーナリズムの仕事、東南アジアやインドへの移動と旅行写真など、活動の幅は広い。*4 センター・ポンピドゥーとMoMAはクリュルを前衛と大衆的な報道・出版の交点に位置する作家として評価している。*5 1985年にドイツで没した。*6

§ 02 / 03 表現の核心

『Métal』と写真集の構造

クリュルの『Métal』は、機械を記録した写真集ではなく、近代都市の骨格を断片、斜線、反復、印刷のリズムとして編集した本である。*7 鉄塔や橋梁は巨大な建造物でありながら、写真集のページ上では抽象的な構成要素になる。ここで重要なのは、写真集という媒体が単独写真ではなく連続する視覚経験を作る点である。MoMAのObject:Photoプロジェクトは『Métal』を写真集史の重要な事例として収録しており、写真集の構成と印刷の美学を分析している。*8

ロトチェンコが革命後ソ連の公共視覚の中で急角度を使い、シェラーがアメリカ産業を精密な秩序として見たのに対し、クリュルは都市インフラを移動する視線として捉えた。*9 彼女の写真は工業美を持ちながら、報道、旅行、商業出版、政治的移動と結びつくため、一つの国や様式に固定できない。ロトチェンコ、モホイ=ナジ、シェラーと比較すると、工業モダニズムの複数の方向が見える。*10 クリュルの工業写真は記録性と構成性のどちらにも完全には収まらない独自の位置を持ち、印刷された本の中でこそ完成するという特性を持つという点で、写真集史の文脈でとくに重要視されている。

報道・移動・女性写真家の位置

クリュルは写真記者としてヨーロッパ各地の政治的事件を取材し、雑誌との仕事を続けながら前衛的な写真実験も並行して進めた。*11 女性写真家として、国民的な作家像に収まりにくい移動性と媒体横断性を持つという評価は、ジュ・ド・ポームやMoMAなどで彼女を取り上げる際の一つの文脈になっている。*12 センター・ポンピドゥーのコレクションはクリュルの写真とアーカイブを保存しており、前衛視覚と報道・出版の接点として再評価する研究の基盤になっている。*13

§ 03 / 03 批評と写真史上の位置

MoMA、センター・ポンピドゥー、ジュ・ド・ポーム、ゲティ美術館、テートなどが作品・資料を参照でき、前衛視覚と報道・出版の接点、また女性写真家としての移動性が再評価されている。*14 ICPやメトロポリタン美術館、AIC、MFAボストンなども関連作品を所蔵している。*15 後年の写真集研究において、『Métal』は写真集が単なる写真の集合ではなく、編集・印刷・デザインを通じた独自の視覚経験を作る媒体として機能する早い例として繰り返し参照される。*16 クリュルの移動と媒体横断的な活動は、国民的な芸術家像に収まりにくいという点で、写真史の中で女性写真家の位置を再検討するための事例としても論じられてきた。前衛、報道、商業を横断した実践は、単一ジャンルの写真家像では捉えにくい20世紀前半の写真的実践の多様性を示している。

§ REL 関連する写真家・運動
関連する写真家
  • アレクサンドル・ロトチェンコ ― 工業と都市を急角度と断片化で捉えるという造形的な語彙を共有しながら、クリュルはパリの報道・出版文化の中で展開した。
  • ラースロー・モホイ=ナジ ― 近代産業の視覚化という同時代の方向を共有しつつ、モホイ=ナジのバウハウス的な教育システムとは異なる文脈から写真集を作った。
  • アルベルト・レンガー=パッチュ ― 近代産業の「物」を視覚化する語彙を同時多発的に形成した作家として、クリュルと並べて写真史的に参照される。
  • アンドレ・ケルテス ― 1920〜30年代パリで移民写真家として報道と前衛の間を移動した同時代の作家。
関連する運動
  • モダニズム ― 近代都市インフラを断片・斜線・反復によって構成的に捉えた写真集『Métal』が、モダニズム写真の重要な事例として写真集史に位置づけられる。
  • フォトジャーナリズム ― ヨーロッパ各地の政治的事件を取材する写真記者として活動し、報道と前衛を横断した実践がフォトジャーナリズムの形成期と重なる。
§ REF さらに読む
写真集
Métal

モダニズムとフォトジャーナリズムを写真史の流れとともにたどる入口になる一冊。

Amazon で見る ↗ ※アフィリエイトリンクを含みます
関連写真集

同じ写真家を別の本や別の掲載でたどるための関連リンク。

Amazon で見る ↗ ※アフィリエイトリンクを含みます
関連データベース・アーカイブ
§ SRC 出典