写真の座標 Photo Coordinates
PHOTOGRAPHERS/BEN SHAHN · FSA
BS
§ 089 — Photographer Index — FSA

ベン・シャーン

Ben Shahn
Country1940s / 1940年代 Period1930–1940s Channel写真史の入口 · PHOTO HISTORY
Abstract

FSA写真部門への参加を通じて、社会的リアリズムを絵画・壁画・ポスターと横断する視覚言語として展開した。画家として評価されながら、その写真は同時代の視覚政治と労働表象の問題を直接担っていた。

この写真家が変えたこと

FSA写真部門への参加を通じて社会批評をひとつのメディアに閉じず、壁画・ポスター・版画・写真を横断する実践として社会的リアリズムを展開した。画家として評価されながらその写真は同時代の視覚政治と労働表象の問題を直接担っており、複数メディアを接続する方法論として写真史に独自の位置を占める。

Keywords FSA MoMA
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 03 背景と時代

1898年、リトアニアのコーヴノ(現カウナス)に生まれ、幼少期に家族とともにニューヨークへ移住した。石版職人として働きながら美術を学び、1920年代にヨーロッパを旅して現代美術の動向に接した。1930年代初頭、サッコとヴァンゼッティの裁判をテーマにした絵画連作で社会的芸術家としての地位を確立し、ディエゴ・リベラが手がけたロックフェラーセンターの壁画制作を助手として経験した*1。1935年頃からロイ・ストライカーの誘いでFarm Security Administrationの写真部門に関わり、ニューヨーク市内の移民街路、アパラチア地域の農村コミュニティを記録した*2。シャーンにとっての写真は独立した芸術行為というよりも、社会批評を可視化するための道具のひとつとして機能しており、撮影した写真は絵画制作のための観察記録としても使われた*3。1940年代には政府壁画、プロパガンダポスターの制作にも関わり、戦争と人権という主題を芸術表現として扱い続けた。MoMAが1947年に企画した個展以降、シャーンはアメリカ社会リアリズムの代表的作家として正典化された*4。1969年没。

§ 02 / 03 表現の核心

ライカと街路の観察——隠し撮りの方法

シャーンは1930年代初頭から、ライカを上着の下に隠して直視せずに撮影する「盲撮り」の手法をニューヨークの街路で実践していた。ウォーカー・エヴァンスも同様の手法を採ったが、シャーンの場合は街路のスナップ写真をそのまま完成作品として発表するよりも、絵画や壁画を制作するための観察資料として活用する傾向が強かった*5。Harvard Magazineが2000年に掲載した記事「In the Streets and in the Studio」は、シャーンの写真が都市観察の手段として機能していたことを、ハーバード大学のBen Shahn展の文脈で検証している*6。スマート美術館(シカゴ大学)が企画した「Ben Shahn's New York: The Photography of Modern Times」展は、写真が彼の都市観察と視覚実験の一部として機能していたことを示す展示として記録されている*7。この「絵画のための写真」という位置づけは、写真を独立した作品として完結させるエヴァンスの姿勢とは対照的であり、写真と絵画の間を往復する実践として写真史に独特の位置を占める。

社会的リアリズムとメディア横断

シャーンの核は、ひとつのメディアに閉じない社会批評の実践にある。壁画、テンペラ画、版画、ポスター、写真は互いに参照し合い、労働、移民、政治的不正義、人種問題を繰り返し主題とした。ハーバード大学図書館が管理するBen Shahn Archiveは、これらの多様な媒体にわたる資料を一元的に保存しており、シャーンの実践の全体像を把握するための基盤的なアーカイブとなっている*8。FSA写真部門での活動は、この社会批評のメディア横断的実践の一部であり、撮影した場所や被写体の選択にシャーンの社会的関心が一貫して反映されている。Library of CongressのFSAアーカイブに収録された彼の写真は、政策広報の産物として同時代に流通した一方、シャーンにとっては絵画的構成を試みる手段でもあった*9。Reina Sofíaが公開した「Ben Shahn On Nonconformity」PDFは、シャーンの反順応主義的な姿勢と芸術的立場を論じる一次的展示資料として参照できる*10

FSA期の写真——都市の労働者と移民の記録

シャーンのFSA写真は、ドロシア・ラングアーサー・ロススタインのように農村の貧困を広範に記録したものではなく、主にニューヨーク市内とニュージャージーの都市的な環境に集中していた。MoMAのコレクションが示すように、シャーンの写真には路地の男性、掲示板と人物の重なり、工場地区の外観など、都市の視覚的密度が凝縮されている*1。これらの写真は、移民が集住するロウアー・イースト・サイドやハーレムの社会的複雑さを、単純なノスタルジーや告発ではなく、視覚的な緊張として記録したものとして評価されている*3。Smithsonian American Art Museumの所蔵作品は、シャーンの社会的リアリズム絵画家としての位置づけを示しており、写真と絵画の両面から彼の業績を確認できる*11

§ 03 / 03 批評と写真史上の位置

シャーンは20世紀アメリカ美術において主に画家として評価されてきたが、近年は写真の仕事が美術と写真の両側から再評価されている。テート・リサーチが公開したエッセイ「Realism Reconsidered: Ben Shahn in London, 1956」は、冷戦期の英国における受容という視点から彼の国際的評価を検証しており、アメリカ社会リアリズムが西欧でどのように受け止められたかを論じている*12。National Gallery of Artのシャーン作家ページは版画・グラフィックを含む美術館所蔵を確認できる*13。ルトガーズ大学が管理するBen Shahn Estateのアーカイブは、ポスター、レタリング、政治グラフィックを含む資料群を保存しており、写真以外のメディア横断的実践全体を把握するための資料となっている*14。Archives of American Artが所蔵するオーラルヒストリーは、シャーン自身の言葉で写真と社会批評の関係を語った一次資料として研究者に参照されている*15。スマート美術館(シカゴ大学)が所蔵するシャーンの作品は、大学付属美術館コレクションにおける彼の受容を示しており、絵画・写真・版画を横断する実践が学術文脈でどのように評価されてきたかを示している*7。ハーバード大学図書館が公開するシャーン関連コレクション資料は、美術教育者・公共芸術家としての活動を含むキャリア全体を追うための補助的一次資料として機能している*8。ハーバード大学のガゼットが伝えたシャーンのティーチング活動は、画家・写真家としての実践と並行して社会的な芸術教育者としての役割も担っていたことを示している*5。神奈川県立近代美術館(MOMA神奈川)のコレクション記録は、シャーンの受容が日本にまで及んでいることを示す事例として参照できる*3。Reina Sofíaが公開しているシャーン関連のPDF研究資料は、スペイン語圏の美術館研究においても彼の社会的リアリズムが参照されていることを示しており、アメリカ・ヨーロッパ・日本という国際的な受容の広がりを確認できる*10。写真はそれ単独の芸術形式というよりも、壁画・ポスター・版画という大型の公共的メディアに転用可能な視覚的素材として機能しており、絵画家が写真を使うことで社会的リアリズムはいかなる力を持ちうるか、という問いは現在においても美術史と写真史の両方から参照されている。Archives of American Artのオーラルヒストリーは、シャーンが写真・絵画・社会批評の三つをひとつの実践として捉えていたことを本人の言葉で確認できる一次資料であり、その複合的な実践を理解するうえで欠かせない記録として研究者に参照されている*15。ルトガーズ大学のBen Shahn Estateアーカイブは、作品と文書を横断する資料群として、シャーンの活動の全体像を後世に伝えるための基盤的なコレクションとなっている*14

§ REL 関連する写真家・運動
関連する写真家
関連する運動
  • FSA写真 ― シャーンが参加した政府委嘱の農村記録プロジェクト。
  • 社会ドキュメンタリー ― 社会変革を目的とした記録写真の実践として、シャーンの活動と重なる。
  • ドキュメンタリー ― 事実の記録と社会批評を結びつけるドキュメンタリー写真の系譜に位置づけられる。
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