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PHOTOGRAPHERS/DENJIRO HASEGAWA · 日本写真
DH
§ 083 — Photographer Index — 日本写真

長谷川伝次郎

Denjiro Hasegawa 1930s / 1930年代
Country日本 Period1930–1940s Channel写真史の論点 · 日本写真
Abstract

満洲、ヒマラヤ、インドを撮影地とする旅行・探検写真集を相次いで刊行し、1930〜40年代日本の外地表象と出版写真文化の交点に位置した写真家。戦後は国内の仏像・古寺写真へと活動を転じ、旅行写真から文化財写真にまたがる幅広い仕事を残した。

この写真家が変えたこと

満洲・ヒマラヤ・インドという広域な撮影地を写真集として相次いで刊行することで、外地・探検という空間的想像力と商業出版を接続する旅行写真集の形式を日本写真文化のなかで開拓した。帝国日本の地理的拡張と同期した視覚言語として機能したその仕事は、戦後の仏像・古寺写真への転換も含め、写真と地理的・文化的想像力の関係を問う資料として評価されている。

Keywords 日本写真 日本
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 03 背景と時代

長谷川伝次郎は1894年生まれ。1920年代から30年代にかけて旅行・探検を主題とした写真活動を展開し、満洲(中国東北部)、ヒマラヤ、インドをおもなフィールドとした*1。Art Platform Japanに収録されたプロフィールは、長谷川を旅行写真・外地写真の文脈に位置づける記録として機能しており、その活動範囲の広さを示している。満洲については写真集『満洲幻想』(昭和館デジタルアーカイブ所蔵)と旅行記的構成を持つ『満洲紀行』を刊行し、旅行写真と商業出版を結びつける仕事を行った*2。国立国会図書館サーチが収録する『満洲幻想』の書誌は、この写真集が「伝説の写真家 長谷川伝次郎」という副題を持ち、現地の風景・人物・都市を網羅する構成を取っていたことを示している*3。東京都写真美術館は長谷川の写真を収蔵しており、1930〜40年代の日本における外地・旅行写真の文脈を示す資料として位置づけている*4

長谷川はヒマラヤへの探検旅行にも参加し、その記録を写真集・紀行文として出版した。昭和館デジタルアーカイブが所蔵する『ヒマラヤの旅』(限定本・図版・地図付き)は、探検旅行写真の代表的な出版物として書誌が確認できる*5。Kotobankの人名辞典は、ヒマラヤのほかにインド仏跡の撮影にも取り組んだことを伝えており、旅行写真の範囲が宗教遺跡へも及んでいたことを示している*6。CiNiiが収録する仏像写真集『蘇る大和の仏像』は、長谷川が戦後に日本国内の古寺・仏像写真へ活動を展開した事実を示す書誌資料である*7。1976年没。

§ 02 / 03 表現の核心

旅行写真と出版メディアの関係

長谷川伝次郎の仕事を単純に「旅行写真家」として閉じてしまうと、彼が担った役割の特殊性が見えにくい。1930年代日本において、旅行写真は個人の趣味にとどまらず、雑誌・写真集・講演・展覧会など複数のメディアを経由して受容される視覚文化の一形態となっていた。JCIIカメラ博物館が「写された外地」という文脈で1930〜40年代の外地写真を整理しているように、長谷川の満洲・ヒマラヤ写真は同時代の外地表象の流通経路と重なり合う位置にある*8。国立国会図書館サーチに書誌が収録される『満洲幻想』は、旅行写真が商業出版として流通する際に帯びる意味——観光的想像力、地理的好奇心、植民地的視線——を示す出版物として参照できる*3。写真集という形式は、連続する写真、キャプション、地図、随想を組み合わせることで、単一の写真プリントとは異なる読者経験を生み出しており、長谷川の仕事はその形式の特性を活かした出版物として位置づけられる。

満洲という表象空間

長谷川が活動した1930年代の満洲は、日本の「満洲国」建設後の政治的空間であり、写真や旅行記が担う視覚言語には帝国日本の外地イメージが混入する。昭和館デジタルアーカイブが所蔵する『満洲幻想』の「伝説の写真家」という副題からもわかるように、長谷川の満洲写真は同時代においても特異な存在として受け止められていたことが示唆される*2。長谷川の仕事は帝国日本の版図拡大と観光産業の発展が重なる時代に生まれたものであり、そこに収められた風景・人物・都市のイメージは、近代日本が外地をどのように見、どのように流通させたかを考えるうえで参照できる資料性を持つ。旅行写真集という形式は、一見中立的な紀行文の構造をとりながらも、どこへ行き何を見るかという選択そのものが歴史的文脈を帯びている。

探検写真とヒマラヤ

長谷川は満洲だけでなくヒマラヤへの探検旅行にも参加し、その記録を出版した。探検写真は一般の旅行写真とは異なり、未知・未踏という空間的想像力を視覚化する装置としての性格が強く、出版に際してはその「発見」的な語りが写真の意味を大きく規定した。昭和館が所蔵する『ヒマラヤの旅』の書誌情報は、限定本という出版形式が写真と地図・図版を組み合わせた探検記録として成立していたことを示している*5。長谷川は仏跡写真の仕事にも取り組んでおり、ヒマラヤからインドの宗教遺跡へと撮影範囲を広げていたことは、旅行写真が観光だけでなく宗教・文化研究的な関心とも接続していたことを示している*6。このような探検・聖地写真の出版は、1930〜40年代日本における写真と地理的・宗教的想像力の関係を示す事例として位置づけられる。

仏像写真と戦後活動

長谷川は戦後、外地探検を離れて日本国内の古寺・仏像の撮影に注力した。CiNiiが収録する『蘇る大和の仏像』は、奈良をはじめとする寺院の仏像写真を収めた写真集であり、戦前の外地探検写真と戦後の国内文化財写真という二段構えの活動が見えてくる*7。東京都写真美術館に収蔵される作品《運河》は、長谷川の写真が美術館のコレクションとして正式に位置づけられていることを示す記録として参照できる*4。Art Platform Japanの資料は、長谷川が写真家として日本写真史上に残る業績を残した人物として評価されていることを示しており、外地写真・探検写真・文化財写真の三領域にわたる活動の広がりが確認できる*1

§ 03 / 03 批評と写真史上の位置

長谷川伝次郎の名は、戦後の写真史において主流の表現写真や報道写真の文脈では取り上げられることが少ない。しかし近年、1930〜40年代の日本における外地表象・旅行メディア・出版写真の研究が進む中で、長谷川の仕事は帝国日本の視覚文化を示す資料として注目されている*8。JCIIカメラ博物館が整理した外地写真の文脈は、長谷川の仕事が土門拳金丸重嶺、那須誠志ら同時代の写真家とは異なる経路——旅行出版・探検記・外地写真集——を通じて写真文化に関わっていたことを示している。東京都写真美術館のコレクションに収蔵された作品は、外地・探検という文脈で制作された同時代の写真として位置づけられており、日本近代写真史における旅行・外地写真の系譜を整理するうえで参照できる存在として残っている*4。長谷川の活動が1894年生まれという世代に属することは重要である。この世代の写真家は、大正期の写真愛好文化と昭和初期の出版産業の拡大を下地として成長し、外地への渡航が制度的に可能になった時期に旅行・探検という形で活動を展開した。外地写真と探検写真が商業出版として流通した1930年代の状況は、写真が「芸術か記録か」という二項対立だけでは捉えきれない多様な使われ方をしていた時代の断面を示している。長谷川が戦後に仏像写真へと活動を転じたことは、外地という空間が喪失した後に写真家がいかに被写体を再設定したかという問いを示す一事例として読める。Art Platform Japanに収録されるような記録が整備されていることは、従来の写真史では周縁に置かれがちだった旅行・外地写真の系譜が、より広い視野で写真史を再構築する動きの中で再発見されつつあることを示している。東洋文庫近代中国研究委員会が収集した資料に含まれる『満洲紀行』の蔵書記録は、長谷川の出版物が中国・東アジア研究の文脈でも資料として保存されていることを示しており、その仕事が帝国日本の外地表象として学術的に参照されていることを示している。長谷川のような写真家を取り上げることは、写真史が「誰を記録し、どの写真が残され、どのように参照されるか」という問いを内包していることを改めて示している。

§ REL 関連する写真家・運動
関連する写真家
  • 鈴木八郎 ― 同じく1930〜40年代に外地写真の制作・出版・流通に関わった同時代の日本写真家として並べて論じられる。
  • 金丸重嶺 ― 1930年代日本写真の制度形成を担った人物として、商業写真・出版メディアと写真家の関係を示す対照的事例。
  • 土門拳 ― 戦後に仏像・古寺写真へ注力した点で長谷川と並走する日本写真家として、文化財写真のジャンルを共有する。
関連する運動
  • ドキュメンタリー ― 外地・探検の記録を写真集として体系化した長谷川の実践が接続するジャンルとして、1930年代日本の記録写真文化。
  • フォトジャーナリズム ― 旅行・探検写真が報道・出版メディアを通じて流通した経路として、外地表象と写真ジャーナリズムの接点。
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写真集
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