写真の座標 Photo Coordinates
PHOTOGRAPHERS/RYUZO TORII · 日本写真
RT
§ 064 — Photographer Index — 日本写真

鳥居龍蔵

Ryuzo Torii 1870–1953
Country日本 Period1890–1910s Channel読む報道写真 · DOCUMENTARY
Abstract

鳥居龍蔵は独学で人類学を修め、1895年から台湾・満洲・朝鮮・沖縄・アイヌ・モンゴルなどで現地調査を行った日本の人類学者・考古学者。約2500枚のガラス乾板写真を残し、考古学的遺跡と民族誌的分類を視覚的に記録した。日本の帝国的知識生産の文脈と写真技術の関係を問う際の重要な参照事例として位置づけられる。

この写真家が変えたこと

鳥居龍蔵は独学でフィールドワークの方法を身につけ、台湾・朝鮮・満洲・沖縄・アイヌ居住地などで約2500枚のガラス乾板写真を残すことで、人類学的記録の媒体として写真を体系的に使い続けた初期の日本人研究者となった。その写真群は今日、帝国的知識生産の視覚装置という批判的検討の対象としても参照される一次資料となっている。

Keywords 日本写真 ドキュメンタリー 日本
§ WORKS 作品を見る

本サイトでは作品画像を掲載していません。下記の公式アーカイブで作品をご覧ください。

目次 · Table of Contents
§ 01 / 03 背景と時代

鳥居龍蔵(とりい りゅうぞう)は1870年、徳島に商家の子として生まれた。正規の高等教育を受けていないが、独学で民俗学・考古学・人類学を学び、1890年から東京帝国大学人類学教室(坪井正五郎のラボ、現・東京大学総合研究博物館)に関わるようになった。正式な学位を持たない独学者が帝国大学の研究機関と連携してフィールドワークを行ったこと自体、明治の知的制度の周縁に位置する特異な経歴を示している。*3

最初の本格的な野外調査は1895年の遼東半島調査で、日清戦争後の日本の統治地域において考古学的・民族誌的な記録を行った。その後、台湾(1896年以降、複数回)、満洲・朝鮮、沖縄、アイヌ居住地、モンゴル、中国南西部、後年には南アメリカにも調査地を広げた。この移動の軌跡は、明治・大正期の日本帝国の版図拡大と密接に連動しており、調査対象となった地域はいずれも日本の影響圏と重なっている。*1

鳥居は調査のたびにカメラを携行し、遺跡、遺物、現地住民の容貌・衣装・建築・農業などをガラス乾板に記録した。現在、約2500枚のガラス乾板が保存されており、そのアーカイブの中心は徳島の鳥居龍蔵記念博物館が担っている。1953年に没した。*1

§ 02 / 03 表現の核心

民族誌的分類と考古学記録としての写真——科学的道具としての視線

鳥居の写真実践は、芸術的な意図ではなく、人類学・考古学の証拠収集という目的から生まれた。ガラス乾板を用いた撮影は、遺跡の平面・立面・遺物配置、現地住民の身体的特徴・衣装・農具・建築・祭祀などを記録するための科学的な道具として機能した。鳥居の調査においてカメラは、スケッチ、発掘記録、身体測定と並ぶ人類学的調査の標準的な道具の一つとして位置づけられていた。*3

那覇市歴史博物館デジタルアーカイブは鳥居が沖縄で撮影した写真を公開しており、沖縄の家屋建築、農業の場面、人物の肖像などが含まれる。これらの写真は単なる旅行写真でも芸術的な記録でもなく、人類学的な分類の視線が明確に感じられる資料である。CiNiiに収録された写真目録はこのアーカイブへの学術的なアクセスを可能にしている。*7

鳥居が用いた写真技法は、当時の人類学調査の標準的な手順に従っており、被写体の正面と側面を対にして撮影する人体計測的なポートレートが含まれていた。こうした構図は、個人の表情や内面を捉えることを目的とした肖像写真とは根本的に異なり、形態的特徴を比較・分類するための資料写真としての性格を示している。この方法論は、19世紀後半のヨーロッパ人類学の視覚的実践から移入されたものであり、鳥居の調査はその日本的な展開の一例として位置づけられる。*3

台湾原住民族の記録と帝国的知識生産——2022年シンポジウムの問い

鳥居が最も多くの写真を残した地域の一つは台湾で、1896年から数回の調査においてアミ族、パイワン族、ルカイ族など台湾原住民族(現在「原住民族」と呼ばれる諸集団)の容貌、衣装、建築、農業、祭祀を記録した。これらの写真は、日本の台湾統治のための民族誌的基礎データとして機能した側面があり、近年の植民地主義と人類学をめぐる批判的研究の文脈においても参照されている。*8

鳥居龍蔵記念博物館と台湾の機関が共同で開催した2022年シンポジウムは、鳥居の調査資料の国際的な再評価と、台湾原住民族の視点からの批判的検討を行った。KAKEN(科学研究費)プロジェクトも示すように、鳥居龍蔵の写真アーカイブは現在も学術研究の対象として、デジタル化・整理・再分析が続いている。*10

写真と身体測定——人類学的手法と帝国の視線

19世紀末から20世紀初頭の人類学では、写真と身体測定(人体計測学)を組み合わせた調査が一般的に行われた。鳥居の調査もこの方法論と結びついており、写真は視覚的な記録と同時に、人種・民族の形態的差異を分類するための比較資料としても機能することが想定されていた。この調査方法は、19世紀の人類学の主流であり、鳥居の実践はその日本版として位置づけられる。*3

Taylor & Francisが掲載した論文はこの問いを正面から扱い、鳥居の調査を日本の植民地人類学史の中に位置づけている。鳥居の写真が純粋な記録として読める一方で、帝国日本の知識生産が「他者」を分類・管理するための視覚的言語を形成していたという批判的な問いとは不可分であるというのが、この論文の中心的な主張である。奈良文化財研究所のデータベースにも鳥居関連の論文が収録されており、考古学史の観点からの参照が可能である。*18

2500枚のガラス乾板——明治・大正期日本における調査写真の制度化

鳥居の約2500枚のガラス乾板アーカイブは、明治・大正期の日本において写真が学術調査の標準的なツールとして制度化されていく過程を示す重要な資料である。このアーカイブの中心は徳島の鳥居龍蔵記念博物館が担い、CiNiiの著作目録と写真目録が学術的なアクセスを補完している。東京大学総合研究博物館も関連資料を保存し、考古学・人類学の制度史の観点から参照されている。*17

§ 03 / 03 批評と写真史上の位置

鳥居龍蔵は日本の人類学・考古学史では先駆的な野外調査者として評価されてきた。徳島市の鳥居龍蔵記念博物館は彼の業績を顕彰し、アーカイブの保存と公開を担っている。その独学による広大な調査の軌跡は、明治の知的環境の中で「非制度的な学者」が制度の周縁でどのように機能したかの事例としても注目される。*1

一方、近年の植民地主義と学術史をめぐる批判的研究の文脈では、鳥居の調査が日本の帝国主義的な拡張と連動した知識生産として成立していたという観点からの検討が増えている。台湾・朝鮮・沖縄での調査は、それぞれの地域の人々を「研究対象」として分類する構造を持っており、現代の研究はその構造を批判的に検討することを求めている。2022年の台湾シンポジウムはこの問いへの国際的な取り組みの一例として位置づけられる。*8

CiNiiの著作情報と写真目録、KAKENの研究プロジェクト記録は、このアーカイブへの学術的なアクセスを可能にしている。CiNii収録の伝記文献も鳥居の生涯と学術的業績を参照可能な形で整理しており、日本の人類学史研究の基本的な参照点となっている。*5

奈良文化財研究所のデータベースも鳥居関連の考古学史論文を収録しており、考古学と人類学の制度史の観点からの参照が可能である。国立歴史民俗博物館のデータベースは、日本の民俗・考古学分野における関連資料を横断的に検索できる資料として機能している。鳥居の事例は、写真が芸術や商業の記録としてではなく、帝国的な知識収集の手段として機能した側面を具体的に示す事例として、近年の学際的な研究においてより広く参照されるようになっている。*18

写真史における鳥居の位置は、日本の近代的学術制度の「内側」と「外側」の境界にある。帝国大学の制度と連動しながらも正規の資格を持たない調査者として機能した彼の経歴は、明治期の知の生産が必ずしも制度の内部だけで行われたのではないことを示す。ガラス乾板という媒体の物質性と、それが現代までどのように保存・継承されてきたかの経緯もまた、写真アーカイブの制度化という問いを具体的に示す事例として価値を持っている。*3

§ REL 関連する写真家・運動
関連する写真家
  • 亀井茲明 ― 日清戦争の従軍写真を組織的に記録した同時代人。亀井の軍事記録と鳥居の民族誌記録は、写真が明治国家の知識・情報インフラとして機能した異なる側面を示す。
  • 横山松三郎 ― 明治初期に写真を記録・複製の手段として工部美術学校で活用した写真家。鳥居より一世代前に、写真が制度的な知識媒体として定着していく過程を準備した。
  • 鹿島清兵衛 ― 同時代の写真パトロンとして明治写真界の制度化を支えた。鳥居のフィールドワーク写真と鹿島のスタジオ・産業活動は、明治期における写真の多様な社会的機能を示す対照的な事例。
関連する運動
  • ドキュメンタリー ― 鳥居の人類学調査写真は、記録・証拠・分類を目的とした組織的な写真実践であり、日本におけるドキュメンタリー的写真の用途が学術・科学の文脈でも広がっていたことを示す。
§ REF さらに読む
写真集
鳥居龍蔵 関連写真集

日本写真とドキュメンタリーを写真史の流れとともにたどる入口になる一冊。

Amazon で見る ↗ ※アフィリエイトリンクを含みます
関連データベース・アーカイブ
§ SRC 出典