ベルント&ヒラ・ベッヒャーBernd & Hilla Becher

ベルント&ヒラ・ベッヒャー(Bernd & Hilla Becher)は、タイポロジー写真とコンセプチュアルアートを考えるうえで欠かせない写真家です。このページでは、タイポロジー写真とコンセプチュアルアートを手がかりに、写真史の流れの中での位置づけを、関連作家・運動・出典とあわせてたどります。

基本情報
ドイツ
生没年 1931–2007 / 1934–2022

解説

ベルント(1931〜2007)とヒラ(1934〜2022)のベッヒャー夫妻はデュッセルドルフ芸術アカデミーで出会い、1959年から共同制作を開始した*1。20世紀後半に急速に消えゆくドイツ・ルール工業地帯の産業建築——水塔・溶鉱炉・ガスタンク・炭鉱の捲揚機・石灰窯——を記録するため、常に曇天・正面・同一スケール・モノクロ・人物なしという厳格な条件で撮影し、同一類型の複数作品をグリッド状に並べた「タイポロジー・シート」として提示した*2。「匿名の彫刻(Anonyme Skulpturen)」とは、1970年に刊行した同名の写真集(デュッセルドルフ:アート・プレス社)で提唱した概念である。水塔・ガスタンク・溶鉱炉といった産業構造物は美的意図なしに純粋な機能と構造的必然から形態が決定される——すなわち誰の名もない「匿名」の形態だが、その結果として彫刻的な視覚的説得力を持つ形が生まれている、という主張だ。これはデュシャンのレディメイドの論理と直結する:美的意図なしに作られたものを「彫刻」と名指す行為そのものが芸術的提案になる。工業建築を「彫刻」と呼ぶことで、機能と美の二項対立・記録と美術の境界・建築と彫刻の区分を同時に問い直した*1。ミニマリズムおよびコンセプチュアルアートの文脈での評価がタイポロジーの方法論を美術史に定着させたメカニズムを理解するには、1969年を出発点とする必要がある。この年、デュッセルドルフ市立芸術館でベッヒャー夫妻の個展が開催されたが、同時期の同館はアメリカのミニマリズム(ドナルド・ジャッド・カール・アンドレ・ダン・フレイヴィン)の展示も行っていた。観客と批評家は同一の制度空間でベッヒャーとミニマリズムを並べて体験した——これが最初の決定的な出会いだった。形式的共鳴は実質的だった:ジャッドやアンドレが追求した「シリアリティ(連続性)・客観性・表現の排除」をベッヒャーのタイポロジー・グリッドも共有していた。ソル・ルウィットの「アイデアが作品を生む機械になる」という定式はベッヒャーの手続き——「同一類型をすべて同一条件で撮影する」という規則が主観的判断を介さず作品を生成する——を正確に記述する。コンセプチュアルアートの文脈との相性が良かったのは、情報・記録・系統的分類をアート実践の中心に置くという問題意識をコンセプチュアルアートと共有していたからだ。カール・アンドレは1972年12月の「アートフォーラム」誌にベッヒャー論を寄稿し「タイポロジーの異常な科学的価値」を認めた——これはアメリカのミニマリズム・コンセプチュアルアート界が夫妻を正式に「採用」した事件とされる。同年、ハラルド・ゼーマン企画のカッセル・ドクメンタ5にも参加し国際的地位を確立した。MoMAは1970年の「インフォメーション」展でベッヒャーを脱物質化・情報ベースのコンセプチュアルアートとして位置づけた。このような制度的枠組みの連鎖——アートフォーラムへの掲載、MoMAへの参加、ドクメンタへの参加——によって夫妻の作品は美術史の解釈インフラ(批評書誌・美術館収蔵・オークション記録・学術分析)に組み込まれ、「タイポロジー」が写真の一実践ではなく美術史的概念として確立した*1。この地位確立がデュッセルドルフ芸術アカデミーでの教育活動を介してグルスキー・シュトゥルート・ルフ・ヘーファーら「デュッセルドルフ派」に継承され、1990年代以降の大判カラー写真市場を形成した*3。1991年のヴェネツィア・ビエンナーレでは写真ではなく彫刻部門の金獅子賞を受賞——これは「匿名の彫刻」論の制度的な最終確認であり、写真が彫刻と同等の芸術的地位を持つという認識の転換点とされる*1。2002年エラスムス賞・2004年ハッセルブラッド賞を受賞。作品はMoMA・テート・シカゴ美術館ほか世界の主要美術館に収蔵されている*4

ベルント&ヒラ・ベッヒャー 写真集

Becher Bernd & Hilla - Typologien
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外部リンク

出典