1956年イギリス生まれ。カラー写真・連作・ブック形式を組み合わせ、ドキュメンタリー写真を内側から刷新した。《A1: The Great North Road》《Beyond Caring》《a shimmer of possibility》などの連作を通じて、社会的現実の断片性と不確かさを写真形式のなかに保ちながら歴史的真剣さを失わない実践を展開した。
グラハムの実践の特徴は、カラー写真・連作構成・ブック形式を組み合わせることで、ドキュメンタリー写真を内側から変革した点にある。初期作品が登場した1980年代イギリスはサッチャー政権下の階級再編と失業の時代であり、《Beyond Caring》は福祉事務所という公的空間の匿名的現実を淡いカラーで可視化した。*1 直接的な報道性ではなく、形式的な曖昧さと社会的観察の共存がこの実践の核をなす。
《American Night》はMoMA PS1のテキストが明示したように、報道写真・ポートレート・風景という従来の境界を意図的に解体する試みであった。*2 過露出の白い画面と暗い細部が交互に現れる連作は、アメリカにおける人種と不可視性という主題を視覚形式として実現している。《a shimmer of possibility》は多枚組の連作で日常的な出来事の細部を提示することで、写真が瞬間ではなく持続した時間を登録しうることを示した。*3
エヴァンス・フランク・ニュートポグラフィクス以後の美術写真が問い直されていた時期に、カラーと連作という形式的選択によって一つの新たなドキュメンタリー美学を確立した。*4 社会的現実は単一のイメージでは把握されないという確信が、すべての形式的選択の根拠となっている。