1953年フランス生まれ。見知らぬ他者を尾行し、他人の日常を記録し、儀式的な行為を手続きへと変換するという行為主義的な方法論で知られる。《Suite Vénitienne》《The Address Book》など、イメージと叙述が不可分に絡み合う作品は、写真の役割をドキュメントから詐術・誘惑・開示の道具へと転換した。
カルの実践の核心は、ルール・行為・手続きから出発するアートワークにある。見知らぬ人物を尾行する(《Suite Vénitienne》1980年)、他者の住所録を再構成する(《The Address Book》1983年)、誕生日の儀式を記録するという方法が、写真・テキスト・ドキュメント的な痕跡を通じて展開される。*1 カルの写真はそれ単独では意味を完結させない——叙述・省略・反復を通じた語りの行為こそが意味を生成する。デッドパンな提示と「事実」らしさの演出が、現実はいかに物語化可能になるかという問いを形式そのものに埋め込む。*2
1970年代末から1980年代にかけて、コンセプチュアルアート・フェミニスト実践・ポストモダン写真が作者性・ドキュメンタリーの真実・個人的な語りを問い直していた文脈で、カルは調査と自伝を融合させることで独自の立場を占めた。監視・親密さ・欲望・プライバシーの倫理を、覗き見る行為そのものを芸術形式とすることで探求し、写真的イメージが意味をもつ条件を語りを通じて問い直した。*3