ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット(William Henry Fox Talbot)は、発明・技術を考えるうえで欠かせない写真家です。このページでは、発明・技術を手がかりに、写真史の流れの中での位置づけを、関連作家・運動・出典とあわせてたどります。
タルボットは1833年10月、ハネムーン中のイタリア・コモ湖でカメラ・ルシダ(光学式製図器)を用いてスケッチを試みたが、自身の画力の乏しさに深く失望した。「カメラから目を離すと、紙の上には情けない痕跡しか残っていない」と後に記している*1。この体験から「カメラが投影する像を化学的に定着できないか」という着想を得て帰国後に実験を開始。1835年の明るい夏、ラコック・アビーの敷地内に小型カメラ(妻が「ネズミ捕り」と呼んだ)を複数設置し、建物の輪郭を感光紙に記録した*2。塩化銀を染み込ませた紙ネガから複数の陽画を作るこのカロタイプ方式は後の写真文化の基盤となった。1839年1月にダゲールの成功の報せを聞き、急いで自身の発明を公表した。1844–46年刊行の写真集『自然の鉛筆』は商業出版された最初の写真入り書籍であり、写真の記録・芸術・複製としての用途を世に示した*1。ただしタルボットが特許権を厳格に管理したため、イギリスではカロタイプの普及がフランスに比べて大きく遅れた*2。