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PHOTOGRAPHERS/ROBERT MAPPLETHORPE ·ポートレート ·UPDATED 2026.07
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§ 040 — Photographer Index — ポートレート

ロバート・メイプルソープ

Robert Mapplethorpe 1946–1989
Countryアメリカ Period1970–1980s Channel写真史の論点 · コンセプチュアル
Abstract

ロバート・メイプルソープは、雑誌の切り抜きを使うコラージュから、自作の像を得るためのポラロイドへ移り、ハッセルブラッドと精密なスタジオワークでパティ・スミス、花、裸体、Lisa Lyon、ニューヨークのS&Mコミュニティを撮った写真家。彫刻への志向、モデルとの信頼、完全なプリントへの執着をたどり、私的な欲望が写真集と美術館の公共空間へ入るまでを読む。

この写真家が変えたこと

メイプルソープは、光、輪郭、姿勢、プリントを細部まで統御し、写真を身体と物を彫刻的な像へ変える媒体として使った。花、肖像、女性ボディビルダー、男性ヌード、S&Mの実践を同じ造形上の規律で撮ることで、社会が分離してきた「美しいもの」と「公開を禁じるもの」を美術館の内部で向き合わせた。『The Perfect Moment』をめぐる論争は、性的少数者の身体と経験が古典的な美術と同じ鑑賞の条件を求めたとき、公共制度がどこまで受け入れられるかを露出させた。

Keywords The Perfect Moment Patti Smith Lisa Lyon 花とヌード 検閲
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目次 · Table of Contents
§ 01 / 04 背景と時代

メイプルソープはクイーンズの中流階級のカトリック家庭に育ち、郊外を「安全で、そこから離れるのに適した場所」と振り返った*1。1963年にプラット・インスティテュートへ進み、素描、絵画、彫刻を学びながら、ジョゼフ・コーネルやマルセル・デュシャンに触れ、雑誌や書籍の切り抜き、布、物体を組み合わせるコラージュを制作した*1。1970年にポラロイドカメラを得ると、コラージュへ使う像を自分で撮る行為を「より誠実だ」と感じ、写真そのものへ関心を深めた。1973年のライト・ギャラリーでの個展「Polaroids」は、その移行を公的な作品として示した*1。彼は写真を、速度が現代生活に合う「完全な媒体」と表現しており、撮影から像の出現までが速いポラロイドは、身体、欲望、身近な物を即座に造形へ変える要求に応えた*11。パティ・スミスとは生活と制作を共有し、互いの活動を支え合った。1970年代前半から半ばにかけてサム・ワグスタッフからハッセルブラッドを得ると、友人、芸術家、社交界の人物、映画俳優、S&Mコミュニティの参加者を本格的に撮影し、コラージュと彫刻で培った「像を作る」発想を、スタジオ、照明、プリント、出版、展示へ展開した*1

§ 02 / 04 表現の核心

コラージュからポラロイドへ

メイプルソープの写真は、既成画像を切断し、再配置するコラージュの問題から始まった。雑誌や本の切り抜きには、出版物が与えた用途と意味がすでに付着している。ポラロイドで自分の写真を作ると、被写体の選択、身体の姿勢、背景、フレームを撮影の場でまとめて決められるようになった。本人がこの方法を「より誠実だ」と表現したのは、自分の経験と欲望に由来する像を、自分の責任で作れるためだった*1。撮影直後に物質として現れるポラロイドは、コラージュの切断と配置をカメラの内部へ移し、結果をすぐ検討できる。さらに彼は、肖像画の完成を待つ時間が失われた現代生活に、写真の速度が適合すると考えていた*11。1973年の「Polaroids」展以後、写真は混合素材の一部から、自分の生活、友人、身体を独立した像として保存し流通させる主要な媒体になった。

彫刻としての写真

メイプルソープは、別の時代に生まれていれば彫刻家になっていたかもしれないと語り、写真を彫刻を素早く作り、見る方法として捉えた*11。ハッセルブラッドの正方形画面、無地の背景、輪郭を切り出す照明、姿勢への細かな指示は、三次元の身体を自立した形へ変換する。ゲティ美術館の資料は、被写体の種類を越えて構図と照明を完成へ近づけることが制作の中心だったと説明し、秩序立った画面の底に性的な緊張や混乱が保たれる点を指摘している*11。古典的な均衡は、私的な経験を長く鑑賞される造形へ変え、ニューヨークの欲望を過去の美術と同じ視覚的な厳密さで扱う構造として働いた。裸体、花、肖像、S&Mの行為が共通の光とプリントで扱われるため、主題の社会的序列より、形、表面、姿勢の差異が先に見える。この形式的な一貫性が、地下文化の経験を美術館と写真集の中で持続させる条件になった。

S&M写真——経験と信頼

1970年代後半のS&M写真は、メイプルソープ自身がニューヨークのレザーバーやクラブへ通い、そこで関係を築いた人びとと制作した。本人は撮影以前から経験への関心を持ち、参加者が行為を望み、信頼がその関係の中心にあったと説明している*12。財団の略歴には、「衝撃」という評価を退け、まだ見たことのないものを探し、自分にはそれを撮る立場と義務があったという言葉が残る*1。拘束具、革、身体の接触を明晰な照明と静止した構図で示す写真は、行為の刺激だけを消費する覗き見の視点から距離を取り、参加者の姿勢、意志、関係を長く見られる像へ変える。厳密な形式によって、地下の経験は曖昧な暗がりから公共の鑑賞空間へ移り、誰が見せ、誰が同意し、誰が見るのかが作品の問題になった。

パティ・スミスとリサ・ライオン

メイプルソープの肖像では、撮影者の構成と被写体の自己演出が交渉される。パティ・スミスとは無名の時期から生活と制作を共有し、互いの自信と活動を育てた*12。1975年の『Horses』のカバーは、白いシャツ、黒いジャケット、身体の傾き、正面の視線によって、スミスが選んだ服装と態度を簡潔な公共像へ変えた。Lisa Lyonとの連作では、筋肉、ドレス、革、布、化粧、裸体、男性的・女性的な身振りが次々に変化し、一人の身体から複数のジェンダー像が作られた。財団の略歴は、二人が数年にわたり肖像、人体習作、映画、写真集『Lady: Lisa Lyon』を共同制作したと記録している*1。スミスの音楽的自己像とLyonの身体表現が、メイプルソープの光とフレームに具体的な方向を与えた。肖像は親密さを自然な表情として採取する行為から、双方が望む人物像をスタジオで設計する共同制作へ変わった。

花、身体、テストプリント

メイプルソープは花、裸体、肖像を、茎、筋肉、布、皮膚、背景の輪郭を調整する同じ造形上の課題として扱った。ゲティ美術館の資料は、被写体を越える構図と照明の完成を追求しながら、完全さがつねに次の試行を求める目標だったことを示している*11。完成作の滑らかさは、撮影後の長い選択とプリント作業から生まれた。彼はコンタクトシートを何時間も検討し、1979年からスタジオに加わったプリンターのトム・バリルらと黒の深さ、階調、紙面を調整した*11。ゲティ研究所とLACMAが取得したアーカイブには、コラージュ、ポラロイド、コンタクトシート、テスト、書簡、展覧会資料が残り、スタジオが反復的な制作組織として動いていたことがわかる*14。花と身体に共通する張りつめた輪郭は、一回の閃きより、撮影、選択、再プリントを通じて形を削り込む作業の結果だった。

§ 03 / 04 代表作・方法・媒体

《Patti Smith》と『Horses』

『Horses』のカバーに使われた《Patti Smith》は、アルバムの宣伝写真と、スミスとメイプルソープが共有した生活と制作の歴史を一つの像へまとめた作品である。MoMAは、ロバート・メイプルソープ、ボブ・ハイモール、アリスタ・レコードによる1975年のアルバムカバーとして作品画像と記録を公開している*3。白いシャツ、黒いジャケット、わずかに傾く身体、正面の視線は、スミスの衣服と姿勢を、詩人、音楽家、若い芸術家としての簡潔な自己像へ変える。メイプルソープが選ぶ光とフレームは、長い共同生活の中で理解したスミスの態度を支え、レコードという大量流通する媒体へ送り出した。撮影者と被写体の関係が作品の前提にあるため、この肖像は一方的な人物演出より、二人がニューヨークで築いた芸術家像の共同制作として読める。

《Lisa Lyon》——変化する身体像

1982年の《Lisa Lyon》を含む連作では、鍛えられた筋肉、衣服、小道具、化粧、姿勢が変化し、Lyonの身体から複数の人物像が展開する*4。写真集『Lady: Lisa Lyon』は、古典彫刻を思わせる裸体、ファッション写真、男性的な身振り、女性的な装い、演劇的な役割を連続させた。財団の出版記録は同書を1983年の主要刊行物として挙げている*10。照明は筋肉を彫刻的な量塊へ変え、Lyonの演技は同じ身体を異なるジェンダー記号へ移動させる。身体の造形と被写体の自己演出を組み合わせた連作は、古典的な裸体表現が前提としてきた安定した男女区分へ変化の時間を持ち込んだ。

《Tulips》——花と身体の緊張

Tulips》では、細い茎の直線、花弁の曲線、暗い背景、広い余白が精密に調整されている。ゲティ美術館は同作を1988年のゼラチン・シルバー・プリントとして作品画像とともに公開している*2。開く形と閉じる形、硬さと柔らかさ、垂直と傾きの緊張が、植物の輪郭へ身体的な感覚を与える。メイプルソープは花と裸体の双方に、表面、成長、衰え、性的な連想が生じる形を見いだし、共通の照明と構成で扱った。晩年まで継続した花の制作は、最小限の形と階調から身体的な緊張を作る造形研究として位置づけられる。

《Self-Portrait》——死に向き合う像

最晩年の《Self-Portrait》では、黒い服と暗い背景の中から顔と手が浮かび、手には頭蓋骨を付けた杖が握られている。ホイットニー美術館は同作を1988年のゼラチン・シルバー・プリントとして作品画像とともに公開している*5。メイプルソープは1986年にAIDSと診断された後も制作を加速させ、1988年には写真の支援とHIV/AIDS研究への助成を目的とする財団を設立した*1。この自画像は顔、手、杖へ要素を絞り、病による時間の制約を厳格な構成へ変える。頭蓋骨は死を明示し、杖を握る手とカメラへ向けた視線は、像の主導権が本人にあることを示す。若い頃から自身の身体と欲望を作品へ含めた作家が、死に近づく身体についても、光、姿勢、プリントを通じて見せ方を自ら決めた。

§ 04 / 04 批評と写真史上の位置

『The Perfect Moment』——写真と検閲

1988年にフィラデルフィア現代美術館で組織された回顧展『The Perfect Moment』は、花、著名人の肖像、裸体、子どもの写真、S&Mコミュニティの作品を、一人の作家の連続した制作として提示した*11。性的に明示的な写真は、公共助成を受ける美術館で、花や肖像と同じ美術作品として展示された。巡回先のコーコラン美術館は1989年に開催を中止し、1990年にシンシナティ現代美術センターが展示すると、美術館と館長デニス・バリーは7点をめぐって猥褻罪で刑事訴追された*7。陪審は無罪評決を下し、この事件は芸術表現、公共資金、同性愛、身体の可視性、美術館の責任をめぐる文化戦争の中心的事例となった*8。メイプルソープの精密な照明とプリントは、性的な写真を花や肖像から造形上分離することを困難にした。そのため制度は、主題の違いを根拠に、どの身体を公共的な美術の外へ置くのかを問われた。

X・Y・Z Portfolio——形式と権力

X、Y、Zの三つのポートフォリオは、S&Mの場面、花の静物、黒人男性の裸体を、対応する三系列として構成した。LACMAはXを1978年、Yを1978年、Zを1981年の作品群として整理し、三系列を縦に対応させる展示案がメイプルソープ自身から示されていたことを記録している*6。正方形の画面、照明、濃密な黒、明晰な輪郭は、社会が異なる価値を与えてきた主題へ同等の造形的注意を向ける。一方、その均衡は、人種、ジェンダー、撮影者とモデル、美術市場に存在する権力差も画面の外へ残す。グッゲンハイム美術館の『Implicit Tensions』は、同性愛的欲望の表象、黒人男性裸体、女性像、被写体の主体性をめぐる後続世代の批評と応答を、メイプルソープの遺産として再検討した*9。X・Y・Zは禁忌へ古典的な形式を与えた達成であると同時に、誰の身体が誰の欲望と秩序によって類型化されたのかという問いを残す。

アーカイブと財団

メイプルソープは、撮影、プリント、出版、展覧会、販売、財団設立を連続した制作として扱い、自分の像がどのように残り、見られるかまで設計した。2011年にゲティとLACMAが共同取得した作品・資料群には、完成プリント、初期コラージュ、ポラロイド、コンタクトシート、テスト写真、書簡、スタジオ記録、展覧会と検閲論争の資料が含まれる*14。ゲティのアーカイブ研究は、学生時代の作品、彫刻、ジュエリー、商業仕事も保存されていたことを示し、写真家であると同時に、自作を選別するキュレーター、収集家、事業者としての側面を明らかにした*15。二館は資料を分担し、LACMAが初期の実験と地下文化を、ゲティがスタジオの規律、古典的形式、プリント制作を中心に展示した*13。1988年に本人が設立した財団は写真展を支援し、HIV/AIDS研究へ資金を提供している*1。欲望、造形、技術、モデルとの関係、流通制度を一つの作品実践へ結びつけた点に、メイプルソープの写真史上の位置がある。

§ REL 関連する写真家・運動
Photographers
Movements / Contexts
  • ステージド写真 ― 本文が述べる、古典絵画の均衡と形式美をスタジオの構成へ適用し、花・身体・ポートレートを同じ美的秩序で演出する方法。
§ REF さらに読む
Robert Mapplethorpe: The Perfect Medium
Paul Martineau, Britt Salvesen 編 / Getty Publications / 2016年

初期作品、スタジオ実践、人体、肖像、花、アーカイブ、受容史を横断する回顧展図録。

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Lady: Lisa Lyon
Robert Mapplethorpe / Viking / 1983年

リサ・ライオンとの長期的な共同制作を、異なる衣服、ポーズ、身体像の連作として確認できる。

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Robert Mapplethorpe: The Perfect Moment
Institute of Contemporary Art, Philadelphia / 1988年

後の検閲論争の中心となった回顧展の作品構成と当時の位置づけを知る資料。

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§ SRC 出典