ラリー・クラーク
1943年アメリカ・オクラホマ生まれ。写真家・映画監督。
家族・恋人・友人、そして自分自身の生活という最も近い圏域を、日記のような距離から撮る写真の系譜。ラリー・クラーク『Tulsa』(1971年)を起点に、ナン・ゴールディン『The Ballad of Sexual Dependency』(1986年)で決定的な形式を得て、1990年代の欧米へ広がった。シャーロット・コットン『The Photograph as Contemporary Art』が「Intimate Life」の章で整理した潮流である。
私生活の内側——家族・恋人・友人・自身の身体——を、被写体との親密な関係を前提とした日記的なスナップとして記録する実践。撮る者と撮られる者の距離の近さそのものが、この系譜の形式である。
インティメイト・ライフが写真にもたらしたのは、撮影者が部外者ではなく当事者であるという撮影の倫理である。ゴールディンが『The Ballad of Sexual Dependency』を「人に読ませる私の日記」と呼んだように、私生活の記録は観察ではなく、生きることと撮ることの一致として提示された。
ラリー・クラークが1971年に刊行した『Tulsa』は、オクラホマの若者たちのドラッグ・性・暴力を、共同体の内側にいる者の視線で記録し、この系譜の起点となった。*1 アンデルス・ペーターセンの『カフェ・レームリッツ』(1978年)は、ハンブルクの酒場に集う常連たちを、撮影者自身がその場の一員となる長期の滞在の中で撮影している。
ナン・ゴールディンは1970年代末からニューヨークで友人や恋人たちを日記代わりに撮り続け、690枚を超えるスライドショー『The Ballad of Sexual Dependency』(1986年)として発表した。*2 ゴールディン自身はこの作品を「人に読ませる私の日記(the diary I let people read)」と呼び、親密さと喪失の記録を写真の主題として確立した。*3
1990年代にはこの系譜が欧州へ広がる。リチャード・ビリンガムの『Ray's a Laugh』(1996年)は、アルコール依存と貧困の中にある自身の家族を親密な距離で記録し、階級と表象をめぐる議論の中心となった。*4 J・H・エングストロームやマンフレッド・ヴィルマンは日常と身体の記録を日記的な編集で発表し、ヴォルフガング・ティルマンスは友人・身体・クラブカルチャーを同じ視野に置く方法で、1990年代以降の写真の範囲を広げた。
2000年代にはライアン・マッギンレーがニューヨークのユース・サブカルチャーを身近な距離から撮影して注目され、エリナ・ブロテルスやディアナ・ショイネマンの自画像日記、ヘレン・ファン・メーネの思春期のポートレートなど、私生活と自己の記録は多様な形式へ展開した。シャーロット・コットンは『The Photograph as Contemporary Art』の「Intimate Life」章でこの潮流を整理している。*5
日本では荒木経惟の造語による私写真が並行する系譜として展開したが、成立の文脈は異なる。ほかに、記録と社会の関係を問うドキュメンタリー、路上の偶然に形式を見出すストリート写真、主題の序列を問い直したコンセプチュアルアートが隣接する。*5
1943年アメリカ・オクラホマ生まれ。写真家・映画監督。
1944年スウェーデン生まれ。クリスター・ストレームホルムに学び、ハンブルクの酒場に集うマージナルな人々を長期撮影した写真集《カフェ・レームリッツ》(1978年)で知られる。
1953年にワシントンDCで生まれたゴールディンは、11歳で姉バーバラを自殺で失った経験から「写真は愛する人を失う前に記録し続けることができる」という確信を抱き、16歳で…
1972年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。自画像・風景・コンセプチュアルな映像作品で知られる写真家・映像作家。
スイス/ドイツ出身の写真家。チューリッヒ・パリ・ロンドン・ニューヨーク・ロサンゼルス・オースティンを拠点に活動し、エディトリアル・セレブリティポートレートと、1999年か…
リチャード・ビリンガム(1970年イギリス生まれ)は、自身の家族を撮影した写真シリーズ『Ray's a Laugh』で知られるアーティスト。工場労働者階級の家庭を親密な距…
J・H・エングストローム(1969年スウェーデン生まれ)は、日記的で感情的に不安定な写真群をフォトブックの形式で発表することで知られる写真家。記憶・親密さ・疎外感を、断片…
ヴォルフガング・ティルマンスは、雑誌、クラブ、展示空間、出版、政治的メッセージを横断し、写真を一点の作品ではなく、イメージが置かれ、流通し、共有される場として考えた現代写…
マンフレッド・ヴィルマン(1952年オーストリア生まれ)は、写真家・キュレーター・編集者として活動し、Camera Austriaを通じてオーストリアの写真文化を形成して…
ポール・アルベルト・ライトナー(1957年オーストリア生まれ)は、写真・アーティスト・ブック・強迫的なアーカイブ収集を組み合わせる写真家。旅・日常的な事物・自伝的な蓄積を…
1972年オランダ生まれ。思春期の少女を中心に据えた繊細なカラーポートレートで知られる。
ライアン・マッギンレー(1977年生まれ)は、ニューヨークのダウンタウン・ユース・サブカルチャーを身近な距離から撮影し、後に屋外での演出的な裸体ロードトリップへと展開した…